大文字送り火 Vol.3
午後8時 中尊寺の鐘の音に合わせて、いよいよ2022年の大文字送り火が始まりました。京都五山の送り火にならい毎年8月16日に行われてきた平泉の恒例行事です。設置された火床は64基。中尊寺の不滅の法灯から分火して運ばれた火が、大の字の一画目、「一」の字の左端の火床に点火され、いよいよ「大」の字を書き始めます。6キロも離れた街の中からみていると、いかにも次から次へと延焼しているかのように見えますが、現地の火床と火床の間は5メートルもの間隔があります。そこで実際には平泉消防団の若手衆が大きなたいまつをもって、順番にひとつひとつに火をつけていくのです。一つの火床が燃え上がれば5、6メートルほどの火柱が上がります。夜のこととはいえ、汗がしたたり落ちるほどの大変な熱さのはずです。また現地は、平均傾斜25度、高低差30メートル、横100メートル、下から上まで距離にして200メートルほどあります。地面は木の根や石・雑草などで、でこぼこしており、右に左にあがったり下りたりと、みなさん大変な苦労をしていることだろうと想像できます。
暗闇の中に、まずは「一」の字が描き出されました。そしてそのあといかにも毛筆で半紙の上に文字を書くかのように、大の二画目「ノ」の字が描かれ始めます。オレンジ色の炎はひとつひとつ左下に向かってゆっくりと下りていきます。7分ほどで「ナ」の字が暗闇の中に描かれました。さあ、いよいよ最後の仕上げです。しずかに静かに今度は右下に向かって炎が下りてきました。「あぁ、あの辺りは中学生が作った火床だ」「たしかあのあたりは応援部隊の有志のみなさんに手伝ってもらって仕上げたところだな」・・・・。8月11日におこなわれた火床作りのことを思い出しながら完成に向かいつつある闇夜の「大」の字をみつめます。『あの時の中学生や参加したみなさんも、どこかでこの大の字を見ているだろうか』と、神事に携わっていただいたたくさんの方々に思いを馳せながら「大」の字の完成を待ちました。
そして64基目の火床に火が付き今年の送り火も完成です。その時を待っていたかのように、やがて一発目の花火が上がりました。ドーン、パチパチぱちぱち。長岡や大曲の花火とは比較にもならず、田舎の花火は一度上がれば一休み、もうひとつ上がって一休み。休みやすみの花火ではありますが、昔見た花火のような味わいのある花火が15分ほど続きました。そして最後に、これまでの花火とはわけが違うぞ、とでもいうようにドーーーーンと、大きな音を立てて尺玉が上がりました。暗い夜空に今日最高の大きな火花の絵をかきます。その絵が消えると同時にバチバチバチバチばちばちばちばちバチバチバチバチと、たくさんの火花が藤の花のように夜空に浮かび上がったかと思うと、それもゆっくりと静かにしずかに消えていきました。残されたのは、まさに消えゆくばかりの、静かなオレンジ色の「大」の字でした。
消えゆく「大」の字、そして花火の余韻とともに、今年の夏も終わりを迎えようとしています。